私たち人間をはじめとする恒温動物は、外気温が零下になる真冬でも、逆に40℃を超えるような真夏でも、深部体温を37℃前後のごく狭い温度域に保っています。電気のコンセントに繋がれているわけでもないのに、動物は自分の体の中でエネルギーを生み出し、それを熱エネルギーに変換して、産熱と放熱をうまくコントロールしながら常に体温を一定温度帯に保っているのです。
この一定の体温を保つ仕組みが根底にあって、私たちの体は血流を確保し、pHや浸透圧、血糖値を限られた範囲に維持し、自律神経系、内分泌系、免疫系を調整し、体内環境のホメオスタシス(恒常性)を維持しているのです。
一方、“発熱”が基本的な生体防御反応であることは経験的に広く知られていました。
紀元前3000年のはるか昔から、腫瘍や感染症など様々な病気に対して、熱を臨床の場に利用する試みは行われてきたのです。
エジプトでは紀元前2600年頃、「外科手術の父」と呼ばれた Imhotep が、腫瘍を外科的に切除する前に患者を発熱に晒し、免疫増強を図ったといわれます。医学の祖と呼ばれるギリシアの Hippocratesは、病気に対する熱の効能を見抜き、「熱を生み出す力を与え賜え。さすればすべての病を治しましょうぞ」という言葉を遺しました。
1927年には、オーストリアの臨床医 Wagner-Jauregg J. が、スピロヘータ属の細菌であるトレポネーマ感染による神経梅毒により麻痺性認知症を発症した症例に対し、マラリア予防接種の治療的価値を実証したことで、ノーベル医学生理学賞を受賞し、体内に熱を発生させる発熱療法が一躍脚光を浴びます。
人工的に発熱を再現する方法には、赤外線、ラジオ波、マイクロ波、超音波、体外循環など、様々な方法があります。それらの中から私たちは温水に着目し、温浴を用いた加温がもたらす生体反応について基礎研究を行っています。